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ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)産学公共創シンポジウム
―世界に貢献するグローバルヘルス人材育成と成長する健康医療産業世界市場―
開催報告

「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC) 産学公共創シンポジウム ―世界に貢献するグローバル人材育成と成長する健康医療産業世界市場―」を、2018年11月6日(火)、大阪大学中之島センター・佐治敬三メモリアルホールにおいて、一般社団法人医療国際化推進機構主催で開催致しました。経済産業省近畿経済産業局様、大阪府様、大阪市様、公益社団法人関西経済連合会様、一般社団法人関西経済同友会様、大阪商工会議所様、独立行政法人国際協力機構関西センター(JICA関西)様、大阪国際フォーラム様、一般社団法人Medical Excellence JAPAN(MEJ)様、関西SDGsプラットフォーム様からご後援のご支援、伊藤忠商事株式会社様、岩井コスモ証券株式会社様、日本生命保険相互会社様、ロート製薬株式会社様、サラヤ株式会社様、サントリーホールディングス株式会社様、阪急電鉄株式会社様、富士通株式会社様、大阪ガス株式会社様、株式会社フィリップス・ジャパン様にご協賛のご支援を賜り、厚く御礼申し上げます。平日午後からの開催にも関わらず、医学界、経済界、学界、経済団体、行政機関等から200名近い方々にご参加戴き、盛大に開催出来ましたことを御礼申し上げます。

開会のご挨拶

澤芳樹氏 一般社団法人医療国際化推進機構 理事長

本日は沢山の方にお集まり戴きまして心より御礼申し上げます。グローバルやイノベーション等色々な面で日本は世界から押され続けている情勢ではありますが、その中で大事なことは人材育成です。世の中を変える基盤作りに向けた議論、そのソリューションとして連携大学院構想の話も含めたディスカッションをして、本シンポジウムを経て日本が元気になるような礎を創ることが出来れば、主催者として幸いでございます。

ビデオメッセージ

西村康稔氏 内閣官房副長官

国会の開会中で大阪に行くことが叶いませんので、ビデオで御挨拶させて戴きます。このシンポジウムを機に、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジについてより理解を深め、日本が果たす役割を議論戴く大きな一歩となればと思います。日本では国民皆保険を1961年に実現し、大いに経済発展を遂げたように、国として発展するには健康の基盤、医療の基盤作りが大事です。いまだ世界の人口の半分の方々がこのような基礎的な医療系のサービスを受けられない状況下で、世界中の全ての人に医療の提供、サービスを受けられるようにしなければならない、その思いで日本も中心となって国際社会で活動を続けてきている状況です。この点においてもユニバーサル・ヘルス・カバレッジは、SDGs、持続的発展をしていく上での大きな一つのテーマとして捉えております。

来年の国連総会では各国の首脳が集まり、第一回首脳会合を開くことになっています。是非そこにも繋げていきたいですし、来年6月にはG20の首脳会合が開かれます。G20は先進国だけではなく途上国の代表も合わせて20か国の首脳が集まり、国際的なテーマについて議論をしていきます。その時に、是非このユニバーサル・ヘルス・カバレッジについても議論がなされればと考えております。

日本が国際的役割を果たしていく上では、人材の育成が不可欠で、多くの人材が国際社会で活躍をして欲しいと願います。そうした観点から、厚生労働省では各省と連携しながら国際的に活躍する人材を育てていく為に「グローバルヘルス人材戦略センター」を立ち上げ、本日のシンポジウムで基調講演をされる中谷先生がセンター長に就任されています。是非この大阪でも、国際的に活躍をされる人材が大いに排出をされればと願いますし、応援もさせて戴ければと思っております。アジア地域では、日本の医療法人等が病院を造り、日本の病院のノウハウを活かし、さらには日本的な食事等を通じて予防しながら医療を提供しているところです。是非こうした展開も政府として大いに後押しをしていきたいと思っています。

本日ご参加の経済界、アカデミア、公務員の皆様は正に本日のテーマである産学公で、それを支える金融機関の方々もおられると思いますので、大いに議論して戴き、連携し、関西の地域の力を結集して、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの分野で大いに活躍される人材、企業が出てきて戴ければと願っています。政府の立場でもしっかりとそうした取り組みを応援していきたいと思います。本日のセミナーで大いに有益な意見交換なされること、そして大きなステップとなることをお祈り申し上げまして私の御挨拶とさせて戴きます。

第1部 ご講演

基調講演Ⅰでは、慶應義塾大学KGRI特任教授 WHO執行理事 中谷比呂樹氏に「世界の保健医療・健康医療産業のトレンドと人材育成」、基調講演Ⅱでは、医療国際化推進機構理事長 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科学教授 日本再生医療学会理事長 澤芳樹氏に「世界の先進医療をリードする関西へ。今こそイノベーションを」と題して、貴重なご講演を賜りました。

基調講演Ⅰ:中谷比呂樹氏 慶應義塾大学KGRI特任教授 WHO執行理事
「世界の保健医療・健康医療産業のトレンドと人材育成」

先程の西村内閣官房副長官からお話にございましたが、厚生労働省関連の「グローバルヘルス人材戦略センター」は、日本で国際機関、特にグローバルヘルス関係の国際機関に行きたい方をプッシュするというファンクションを持っております。本日は、グローバルヘルスのトレンドをご理解戴き、グローバルヘルスは何なのか、世界の健康状況はどうなっているのか、SDGsの話を主にしたいと思います。SDGsこそ、アカデミア、インダストリー、公的機関のパートナーシップが必要で、今ダイナミックに動いております。その話を中核に、人材養成、ヒューマンキャピタルとグローバルキャリアの話もしようと思います。

グローバルヘルスと言うと自分達と関係ないと思っている人が多いのですが、実は関係があり、私達の技術が役に立つ時代になっています。日本は凄い勢いで国内医療が国際化しており、インバウンドや長期滞在の方も増え、医療・介護人材も国際化して、医療や介護を国際的に考えないといけない時代になっています。また繋がりあう世界での危機管理という観点では、エボラ、黄熱病等日本人が予防接種を受けていない感染症が隣国まで来てしまったように、グローバルヘルスは我々の身近な話です。

世界の死因は、低開発国(世界人口70億人の内8億人、約12%の人が住んでいる国)では肺炎、エイズ、下痢が三大死因ですが、中進国の病気には虚血性心疾患、要は心筋梗塞、脳卒中等があり、我々が普段みている病気とそう違いません。大災害やエボラ、難民等国際感染症が流行る事態が発生することはあっても、世界の健康は良くなっていますが、現在60歳以上の高齢化率が30%以上の国は日本だけですが、2020年にはドイツとイタリア、2025年にはスペイン等ヨーロッパの国々、2035年にタイ、2040年に中国、2050年にイラン、タイ、チリ等、私たちが想像もしないような国が30%以上となり、高齢化国になっていきます。今後、貧困と病気との連鎖が断ち切られて国々が豊かになれば、国際保健に関与することは日本の経済活性化に繋がり、中進国中心の世界では、日本の疾病構造と似ている為、日本の医療技術がそのまま役立ちます。少子高齢化の波に世界で初めて直面している日本がどう乗り切るか、世界各国が見ているという状況と思います。日本は高齢化から高齢社会になるまでの期間24年かかりましたが、例えば韓国、ベトナムは18年と、日本より短い期間で高齢化していく国があります。こういう国からみて日本はどのようにして波を乗り切るのかというのが大課題になってくるわけです。

安倍政権では経済の日本再生プログラム、経済のリバイタリゼーションとして海外への医療の展開と受入れ、インバウンドアウトバウンドを進め、介護分野でもアジアの市場を積極的に開発していこうとしており、「アジア健康構想」を打ち上げ、SDGsはこのようなことを支えるとても良いコンセプトなので、安倍首相が本部長になりSDGs推進本部というのを官邸に置き、推進しています。

高齢化というと、すぐに高齢者介護をどうするかという話になりますが、高齢者サービスと言うのは医療や介護ばかりではなく、スポーツ、フィットネス、住宅改装や都市の改造等関連生活産業が大きなウエイトを占め、経済波及効果が大きいのです。日本は医工連携の典型的補装具が世界で1番進んでおり、福祉車両や認知症サポーター等優れたサービスを持っています。「アジア健康構想」のエスティメイトを2035年の市場経済でみますと、高齢者関連産業が、日本で約100兆円、中国が3倍の約300兆円、韓国が日本の4割程度。このようなマーケット規模になっていくので大きなビジネスオポチューニティがあるというわけです。来年G20が大阪でありますが、世界の高齢者人口を60歳以上とすれば、70%がG20の国に住んでいます。日本は高齢国だといいますが、絶対数で1番多いのは中国で、中国に75歳以上人口が既に日本の人口の3倍住んでいます。それから2番目に多いのがインド、3番目がアメリカ、そして日本という順番です。逆に言えば、こういうところに高齢者マーケットがあるわけです。これらを背景に「アジア健康構想」が出来て参りました。高齢者マーケットは裾野が広いので、裾野まで広げたコンセプトにしようと、「アジア健康構想」の改訂版が今年の7月に出てきたわけです。SDGsに関与する意味というのは、その他の分野でも関連し、大きな経済活動になるのでSDGsはとても魅力のあるコンセプトなのです。

2015年に「国連持続可能な開発サミット」が開催され、2016~2030年まで全ての国がそれぞれ持続型の社会に変革していくSDGsの目標が掲げられました。生涯にわたる健康を目指して、全ての国が対象で、重要なコンセプトは他分野から協同して働きかけることで、理想を達成するためにはイノベーションが必要です。SDGsには17目標があり、例えばその中の3、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」の目標をもとに小さなサブ項目が立てられ、今まであまりヘルスに関係なかったような会社が貢献出来る世界になってきました。UHCは、アメリカ、中国というボリュームマーケットはまだ到達していません。SDGsに産業界が関与する意味としては、積極的なビジネスオポチューニティがあります。ネガティブな意味では、SDGsというのは国際社会のソフトローみたいになっていますから、例えばSDGsの中には良好な労働環境がありますが、企業価値とのwin-winということであれば、年金積立金管理運用独立行政法人で、ESG(Environment Society governance)の指標にリンクしたインデックスファンドを買うようになりましたので、株価が上がります。経団連もそのようなことからSociety5.0の中核概念としてSDGsを位置付けて、プロモーションしています。これから人口が増えるアフリカはSDGsが殆ど到達していないので、大きなポテンシャルがあり、ビジネスオポチューニティがあると言えます。

グローバルキャリアの作り方に関連し、人材への投資が再度見直されています。これを言い始めたのが、世界銀行総裁のジム・ヨン・キム氏(私のWHOの時の前々任者)が「人間への投資(健康、栄養、教育)ほど投資効果の高い分野は無い」と仰っています。教育への投資はとても重要なので皆様方がお考えの連携大学院のような新たな仕組みを創ることはとても意義のあることです。そういう教育機関を出た人がどのようになるかというと、資格を活かす、学びを活かす、あるいは少し違う分野にいく等、3つ程度あると思います。国際保健というとお医者さんや看護師さんの話と思うと思いますが実はそうではありません。私たちの「グローバルヘルス人材戦略センター」では毎週20くらいの国際機関の空席情報を見ていますが、医者や看護師等のメディカルライセンスが必要なポジションは12%、医療ライセンスではないが何か保険関係の教育が必要な割合が約36%。半分程度は正に経済や法律等の分野の方々が活躍できるポジションになります。例えばプロジェクトのマネジメント、あるいは調整等のポジションが増えています。将来、連携大学院を創る時にはこういうような方々を排出して戴くというのは非常に大きな価値があると思います。今までの人材というと、分かりやすいのは低開発国で医療サービスを直接やるような人達、あるいは低開発国向けの政策をつくるようなWHOや世銀でしたが、これからはボリュームマーケットの中進国で活躍するような人材を養成していくことが大きな人材養成のバキュームであると思います。サマリーは内外を分けて考える時代ではなくなりました。日本の経験とこれからのイノベーションは世界的に価値があります。貢献のみならず私たちが経済活動として、日本が世界の中で生きていく大きな役割を果たしていくのではないかと思います。

2025年のエキスポの招致と開催がうまくいきますことをご祈念申し上げまして、私の講演と致します。

基調講演Ⅱ:澤芳樹氏 医療国際化推進機構理事長 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科学教授 日本再生医療学会理事長
「世界の先進医療をリードする関西へ。今こそイノベーションを」

医療国際化は大変重要だと認識しており、理事長を拝命しております澤でございます。色々な医療の展開、発展、国際化をどうするのか、人材育成、人づくりをどうするのかに尽きると思います。

アメリカのナシュナルインテンスカウンセルが2030年までに世界で起こる変動として「オルタナティブワールド」を提唱しており、特に、健康ヘルスの近未来におきまして、当然ながらゲノム、予測医学、プレシジョンメディスン、AI、ディープラーニング、ロボティックス等が当たり前の本格的な医療になり、iPSを中心とした科学の進化が、人を治すまでのレベルに2030年には確立されるということが、アメリカで予測されている医学の変化であります。

私達、大阪大学では再生医療につきまして2000年から研究開発をして、細胞のシートに患者さんの足の筋肉を使って治療してきて、患者さん自身は2007年からファーストインヒューマンを行ない、50例以上の治療を行わせて戴き、想像以上にこの治療が上手くいきました。ハートシートというテルモさんの製品として2016年から薬事承認を受け、保険診療が開始されているという段階であります。更にiPSはご存知のように山中先生が2012年にノーベル賞をとられて大きな追い風です。今、世界の中で再生医療技術をみますと日本が一番進んでいると思います。心筋再生、神経、目、パーキンソン病、肝臓病も含めて色々な領域で世界トップの医療技術が進んでおります。我々の心臓再生医療は、細胞シートを作る工業的な技術を養いながら進化してきて、厚労省の再生医療部会で承認を受けて2019年から臨床が開始される段階に入っております。世界の心不全の人を救いたいという思いからCUORiPSというベンチャー企業を作り、企業の協力も得て製品化に繋げているレベルにまできています。我々の経験値からいいますと、上手くいっているのではないかと思いますが、このようなベンチャーがどのように発展するかというのを、日本全体で考えてみると、なかなか発展には繋がっていないことが現状ではないかと思います。

一方で、シリコンバレーでは、凄いベンチャーが発展しているというのが周知の通りであります。その仕組みがどうなっているのか、私はアカデミアなのでアカデミアの視点から解析すると、まずは教育があり、人材育成があります。人を育てている核になるのはスタンフォード大学です。アメリカの大学ではマネジメントの部分に専門家を導入することで、大学の運営と経営とを切り分け、例えば、成功例の1つのスタンフォード大学はショッピングモールも持っていたり、スポーツでも強い人材を育てたり、色んな特別な教育をしています。そのうちの1つがスタンフォードバイオデザイン、アントレプレナーシップ、いわゆる起業家を育てる教育をしています。ベンチャーの育成の仕組みはアメリカでは進んでいて、ジョンソン&ジョンソンの楠さんからもご紹介戴きますが、ジョンソン&ジョンソンがやっているJラボの仕組みというのが1つのヒントになるのではないでしょうか。それが企業に繋がり、オープイノベーションや投資が生まれて、その連鎖によって大きなシリコンバレーを成功させるエコシステムになっているのです。その資金が還元されてスタンフォード大学は凄いドネーションで潤っており、またそれが次の人材育成に使われているという、このような連鎖の仕組みがエコシステムの例ではないでしょうか。

研究者側と企業側が同じ目線のwin-winで、企業のニーズを受けて大学側も対応し、それが新しい成果を生む仕組みがオープンイノベーションですが、日本ではヘルスケア領域で成功していませんでしたので、学内での産学連携の1つを全く変えるためにも、クロスイノベーションイニシアティブを立ち上げ、30社を超える企業の方々とwin-winの目線で包括契約をして連携しています。そこに大きなオープンイノベーションの場が出来ており、会社の垣根を超えて科学反応を起こして新しいものが生まれ、それを我々がお手伝いし、色々なテーマを発展させながらクロスイノベーションイニシアティブが発展してきています。これが新しい産学連携のパターンではないかと思います。参加を希望する会社が増えており、ジョンソン&ジョンソンイノベーションも参加してくれました。感心したのはJラボというベンチャーインキュベーターが、サンフランシスコ、その他北米にも拠点があり、1拠点につき約40位のベンチャーがあり、そのベンチャーが2年で卒業します。卒業とは上場する、スピンオフ・スピンアウトしていくということで、これは予備校ビジネスのような感じかと思います。ここまでくるとブランドですので、Jラボに入ることが1つのステータスになっているわけです。そうすると良いベンチャーが入るので、そこに投資が集まる仕組みが出来ているわけです。この連携は非常に大事で、連携させながらエコシステムをどうやって発展させていくかということを今考えております。もう1つスタンフォードにフォガティーラボというのがあり、ここもスタンフォード大学に繋がっており、スタンフォードバイオデザインとも繋がっていて、人材が流動的に流れていくのです。スタンフォードバイオデザインで育て、その次に起業させ、インキュベーターで更に大きくなる仕掛けがあるので、大きくなると投資がきます。この投資に日本の企業も参加しています。一方、サンディエゴではバイオクラスターとしてカリフォルニア大学を中心とした3、4の研究所の周りに1100社の会社があり、3万人の雇用と3兆円の経済効果をもたらしています。

関西は医療特区ですが、大阪大学医学部もそうですが大阪の都心に大学がないことは極めて奇異なことだと思います。そんな中、中之島4丁目に未来医療国際拠点を作って医療を発信させながら、人材育成、エコシステムが出来ないかを、大阪府を中心として議論がされています。そこでも幅の広い大きな形で医療に携わる人をもっと増やし、人を育て、それが産業に繋がっていくようなステップアップが重要だと思います。

私は大阪大学の医学部長の時代、医学部修士の構造を変えるのに、多くの枠を広げた医学部修士の人材育成をという取組みを行い、それは一定の手ごたえ感はあったのですが、もっと広げるような形で、色々な人材を育てていくことが大切であり、色々な職種に発展していくことが重要で、その中にはバイオデザイン、医学統計、IoT、経済・政策・経営・法学・倫理等、文化系理科系問わず、医学部以外の方々が医療人として活躍する場をどうしたら出来るのかということが、浮かび上がってきます。本日の課題の連携大学院構想について、ウェルビーイングイノベーションを起こす国際人材育成、関西の叡智を結集して、しかも医学部は勿論参加して戴き、医学部以外の工学系の大学や文化系の大学、理学部そういう方々皆が集まって、国際人材を育成することが最終的にイノベーションに繋がるのではという話は、打合せはしておりませんでしたが、中谷先生の話とほぼ一緒だなと思っております。その構想として具体的にお話し出来る範囲としてご紹介させて戴きますと、国際社会と共にSDGsやSociety 5.0で進めているという、この健康長寿大国の日本が更に質を高めていく為にウェルビーンイングイノベーション・グローバルビジネススクールとWHOグローバルヘルス大学院、この2つを連携させて、これをうめきた、中之島、神戸と繋げていきながら、グローバルヘルスの国際人材を如何に育成するかを考えます。具体的には、関西の医科系大学やそれ以外の大学との大きな連携、連合体が、新しい人材を育成する、また一方でWHOはグローバルヘルスの大きな意味での社会医学を実践されているわけですから、先程の中谷先生のお話のような、もしくは中谷先生のような方が育つような人材育成の場というのが大事だろうと思います。

その2つを合わせ、大学、ビジネススクール、医科系大学との連携によってウェルビーイングイノベーション・グローバルビジネススクールとWHOグローバルヘルス大学院の連携した構想、色々な領域・職種に影響するような国際医療人育成について、本日ご登壇の先生方と有意義な討議をすることが本日の主題でございます。

山村雄一先生の碑が千里中央の駅にあるのをご存知でしょうか。「天の時 地の利 人の和」は、言い換えると、ピンチはチャンスだということです。これをうまく生かし、まず人材育から始まることで、大きな発展が世の中を変えていくのではないかと考える次第でございます。

第2部 企業発表
「成長するヘルス&ウエルネス世界市場とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」

企業発表では、株式会社フィリップス・ジャパン 代表取締役社長 堤浩幸氏(営業本部 京滋北陸ブロック ディストリクト・マネージャー 佐藤隆文氏代理ご挨拶の後、ビデオメッセージ)、Johnson & Johnson INNOVATION Director, New Ventures Japan 楠淳氏、日本生命保険相互会社 執行役員 営業企画部部長 岩崎裕彦氏、富士通株式会社 第二ヘルスケアソリューション事業本部 第四ソリューション事業部 第二ソリューション開発部 部長 田中良樹氏に「成長するヘルス&ウエルネス世界市場とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」をテーマにご発表戴きました。

株式会社フィリップス・ジャパン 代表取締役社長 堤浩幸氏
営業本部 京滋北陸ブロック ディストリクト・マネージャー 佐藤隆文氏

フィリップスは、2025年までに世界30億人の人々の生活を向上させようという大きな目標を掲げて活動を進めています。フィリップス・ジャパンとして新たなソリューション、ヘルステックカンパニーとして大きく1歩を踏み出しております。

ビデオメッセージ

フィリップスのヘルステック、一体何を考え、これからどういうことをやっていくのかご紹介させて戴きます。ヘルステックには4つのトレンドがあり、第1はボリュームから価値創造、第2は高齢化、少子化、色々な社会的諸問題の解決、第3は患者様主体の医療モデル、人を中心にしたビジネスモデル、第4はデジタル化によるトータル的なアーキテクチャープレイスです。個々のものをトータルしたエンドトウエンドが医療ソリューションと捉え、健康な生活、予防、診断治療、病院、クリニック、在宅ホームケア等全体を統合とした最適化を考えていくことがフィリップスの価値創造であり、カンパニーのバリューで、私達はヘルスコンティニュウムと言っています。デジタル化、色んなツールを一人一人に合った医療ソリューション、個々のニーズに基づいたものを提供し、低コストで高品質な医療を実現していきたいと思っております。更に、全てのものを繋ぐコネクティッドによるシナジー、1+1=2ではない1+1が5にも10にもなるようなソリューション、価値創造を皆様と一緒に具体化していくことも私達の戦略です。

オープンエコなクラウドシステムを持っており、今後日本だけでなくグローバルにも展開出来るソリューションです、次世代のインフラも重要で、病院と病院、もっと大きなコミュニティ創造をしていくとどうなるのか、色々なものが繋がるわけですから、そこで出たデータをどう転用するのか、色々なAIを駆使しながら、皆様への価値創造を更に強化し、大きな地域連携を創造していくことがソリューションの目指す姿、ヘルステック構想です。メディカルテックではなく、ヘルステックとは大きな社会で大きな生活パターンで物事を考える価値創造をしていくことがベースになっています。

私達のAIはアダプティブインテリジェンス、あるいは医療に特化したAIサービスを提供していきますが、このAIをフィリップスだけでやろうとは考えていません。皆様と共に、オープンの場で一緒にワークしながら、マーケットプレイス、ソリューションモデルを創っていき、データを吸い上げて還元していく、フィリップスのデータも還元し、皆様のデータと整合しながらAIを駆使しそして価値のある情報を提供し、エコシステム、全体の最適化、患者様を含めたベストなソリューション、ベストなAIを提供していくことが、私達が考えるAIの姿です。私達はオープンエコシステム、多くのパートナー様との連携の中で異業種という壁を取り払い、1つ1つの課題解決をしながら、共に新たなソリューションを創造しております。患者様主体、人主体の色々なサービスもこれから強化していきます。

一例として、EICUと言う、日本初・アジア初のICUのシステム、これは既に稼働しており、さらにグローバルで同じプラットフォームの中で、例えば日本が朝の時アメリカやヨーロッパが夜の状況でも連携しながら色んなEICUを効果的に進めていくのが次の課題です。また達国立循環器医療センター様とは循環機能のAI、名古屋大学様とはインフォームケアで在宅のAI、スマートホスピタル、AIホスピタルのトリガーとなるようなソリューション、東北大学様とは全学連携ということで行動変容の研究を一緒にやっていこうとしています。さらに札幌市や山梨県等、コミュニティプロジェクトも進めており、各県個々に基づいたデータのフィードバックをこれからも強化していきます。アライメントの一つの大きな要素のベンチャーですが、「フィリップスヘルスワークス」というプログラムを日本でもこれから展開致します。これはベンチャー支援ということでファンドだけではなく、私達のリソース、検証のエリア、例えば日本で検証出来ないものは世界で私達がオペレーションしている国で検証出来るようにサポートします。

私達は仙台に「コクリエーションセンター」を来週オープンします。これは世界のイノベーションを日本へ持ってくるだけでなく、日本のイノベーションを世界に、エコシステム、エコパートナーの皆様と共に、日本の叡智を集め世界に展開し、具体化しながら健康な生活、ヘルステックに関わる研究をやっていこうと考えています。フィリップスの今後にご期待戴くと共に、皆様のご指導、ご支援をお願い致します。

楠淳氏 Johnson & Johnson INNOVATION Director, New Ventures Japan

Johnson & Johnsonは、あらゆる消費者向け商品や治療用の医療機器、医薬品をカバーするヘルスケア企業です。Johnson & Johnsonは、米国のニュージャージのNew Brunswickという町で滅菌した包帯や縫合糸また縫合針を製造販売するベンチャー企業としてスタートし、それから130年後の現在、175カ国に事業を展開し、13万人を雇用する世界最大のヘルスケア企業になりました。昨年の売り上げは約7兆8千億円ですが、これを支えるものはイノベーションへの投資、特に外部へのイノベーションへの投資によるものであると考えております。現在の科学技術は、以前と比べて広く深く進化しているので、1社で全ての技術をカバーすることは出来ません。従って、社内に効率良く最新の科学技術を取り入れるためには社内での囲い込み型の研究開発スタイルからコラボレーション型へと変えていく必要があります。j&jでは、必要な人と人、物と物、技術と技術を結び付けて、研究開発を加速するネットワークを構築することを、j&jにおけるイノベーションと定義し、それを担う新たな会社としてJohnson & Johnson INNOVATIONを立ち上げました。

イノベーションを起こすためには人が集まって、知識を集めて、ものづくりを進めていく環境が非常に重要です。j&jイノベーションは縦軸と横軸のものづくりの流れで、アイデアを思いついて製品化する初期段階から製品化の段階まで諸々のサポートを行っております。またj&jイノベーションの傘下に、JLABSというインキュベーターラボがあります。真理を見出すことがアカデミア研究である一方で、企業では、特許を取得し製品化を目指して研究活動を行っております。このようにアカデミア研究と企業研究の間にギャップがありますので、アカデミアの研究をそのまま製品化するのは難しいという現状があります。そこで、j&jは、昨年3月に大阪大学様と包括連携協力を結ばせて戴き、我々が持つ製品研究のノウハウ、知識、製品開発に向かうプロセス等の情報をアカデミアの先生に提供させて頂いて、まずはこのギャップを埋める試みを始めました。この活動を通して生じた新しい知見や発見の権利については、j&jには全く帰属しないというのが、本取り込みの特徴で、研究者の方々も安心してj&jとのコラボレーションができるように配慮がなされています。j&jとしては、私達のノウハウを伝えることで、これまでアカデミア研究でとどまっていた新しいイノベーションの種が産業化に向けて進み出すこと、そして、その数を増やしていくことにより、より多くの日本発イノベーションが市場に出ることを期待して活動しております。

北米10か所で展開しているJLABS(インキュベーターラボ)は、ただの場所貸しだけでなく、大企業ならではのメンタリング、コネクション、知識にアクセス出来るという、スタートアップ企業には非常に大きなメリットがあります。2019年5月には上海にアジア初のJLABSが完成いたします。大企業が蓄えたノウハウにアクセスする、つまり人材育成が絡んできますが、それを得ることによってより効率的にスタートアップ企業を大きくしていくシステムです。

早期のイノベーションの種を育てるためにどうすればよいか、それをドライビングする人材を如何に育成するかもイノベーションを起こすためには重要なテーマで、医薬品・医療機器などの分野においてそのような人材は、非常に少ないという現状があります。今日のような機会を持って議論を活性化して欲しいと思います。

岩崎裕彦氏 日本生命保険相互会社 執行役員 営業企画部部長

日本生命は昨年からヘルスケア領域の取組みを本格的に開始しました。本題に入る前に、大阪と当社の関係についてですが、明治22年に大阪の地で創業し来年で創業130年を迎えます。会社の向かいに緒方洪庵先生の適塾があり、緒方病院の建物敷地を継承させて戴いて昭和6年に日生病院も開業し、日本生命病院としてリニューアル致しました。また大阪府とは包括的連携協定を結び、地域の活性化と大阪府民のサービス向上の取組みを進めております。

日本生命がヘルスケア領域の取組みを始めた理由は、ヘルスケアで起きつつある変化が生命保険事業領域にも大きなパラダイムシフトを起こし、これまでの保険のように万が一に備えることだけでなく健康寿命の延伸に貢献する新たな付加価値を付けなければ事業の発展はないのではないかという思いからスタートしたわけでございます。ポイントとなるのはヘルスケアのデータで、多くのヘルスケアデータを盛り込んでいくことで保険機能の拡大が出来るのではないかと考えています。単なる保障機能に留まらず健康増進のプログラムや重症化を防止するマネジメントを、従来の枠組みを超えた新たな価値を提供していきたいと思います。

日本生命がヘルスケアを通じて目指すビックビジョンの1つ目は保険事業の高度化によって万が一に備える機能を更に拡大していくこと。2つ目は健康寿命に貢献する様々なサービスを提供していくことで人生100年時代のライフサイクル、生涯に渡ってお客様に寄り添う企業を目指していきたいと思っております。今後のヘルスケアの展開のイメージはケアチェーンと言われるもので、元気な方から万が一病気になっても重症化や再発にならないようなマネジメントを一緒に行うことで幸せな一生を送って戴きたいと思っております。プラットフォームは「ウェルネススター」というブランド名で4月から提供を開始し、サービスの拡充と共にサービスを一元管理することで、新たなサービスの展開、保険事業の高度化を実現して参りたいと思います。既に30の健保様にご導入して戴いておりますが、今後糖尿病の予防プログラム等サービスの拡充を図ってまいります。

お客様に寄り添い人生100年時代を支えていくというコンセプトをより高めたいと考えております。日本生命が差別化出来る要素として1つは5万を超える営業職員がフェイストゥフェイスで直接顔を合わせること。2つ目は、生命保険は長いご契約期間ですのでアフターフォローにヘルスケアを取り込んでいきたいということです。相互会社のお互い助けあう仕組みと精神をヘルスケア領域にも生かし、皆様のお力を借りながらサービスバリューアップに繋げていきたいと思っております。

田中良樹氏 富士通株式会社 第二ヘルスケアソリューション事業本部 第四ソリューション事業部 第二ソリューション開発部 部長

富士通はICT企業として病院向けには電子カルテを中心として開発・構築し、自治体などにおいてもシステム構築をしています。次の10年を担うシステムとして個別化医療・ゲノム医療、健康医療プラットフォーム、ヘルスケアAIの3つに取り組んでおります。

本日はこの中で健康医療プラットフォームとヘルスケアAIについてご紹介します。まず健康医療プラットフォームとして、生まれてから亡くなるまで様々なライフステージの健康アプリケーションのデータを管理、集約、活用する個人向けサービス基盤、ヘルスケアパーソナルサービスプラットフォームを開発し提供しています。医療サイド、EHR、電子カルテと相互に接続することによって、医療従事者の記録(カルテ)と個人のデータとが融合し、色々な研究や新しい事業が生まれるのではないかと考えます。人生100年時代、PHR事業というのは100年のデータをお預かりするということです。富士通はこれまで50年近くヘルスケア事業に携わっていますので、情報を安心してお預け戴ける環境を提供出来るのではと考えています。色んなベンチャーのアイデアを実現するにあたり、データを安心して預けて戴ける環境をつくることが、我々が健康医療プラットフォームをやる意義と思っております。

また地域医療ネットワークでは7000以上の医療機関がネットワークで繋がっています。電子カルテや介護支援システム、自治体の介護ソリューションなどのシステム構築の高いシェアとそれらシステムの連携ノウハウがあります。また、垂直化されたプラットフォームということで、データセンター、クラウドの提供もしています。クラウド上にIoTからAI、セキュリティが統合されていて、その上に各業種、金融、流通、自治体、医療等が乗っていて、全体として統合されたプラットフォームになっています。ヘルスケアだけでなく色々な業種と連携しやすい環境をつくっていくことに我々の意義があるのではないかと考えています。ヘルスケアパーソナルサービスプラットフォームの活用事例ですが、海外でも(フィンランド)、膝関節を可視化することでリモートケアをする実証事業をやっています。関西では、大学と自治体による健康促進サービスというもので健康情報を集めるだけでなく、医療サイドから色々なアドバイスを送り、双方向のサービスをすることで住民の健康を高めていく取り組みに使っていただいています。ヘルスケアパーソナルサービスプラットフォームは現在20以上のサービスが動いており、その知見を活かして、新たな事業をやっていけたらと思っております。

ヘルスケアAIでは「Zinrai」というAIクラウドを提供し、人を中心としたAI、継続的に成長するAIをコンセプトにサービスを提供しています。社会インフラ、フィンテック、ヘルスケア等様々なところで活用戴いていますが、ヘルスケアの部門では業務効率化支援、臨床試験支援をターゲットにヘルスケアAI基盤というものの開発を進めています。ヘルスケアパーソナルサービスプラットフォーム、ヘルスケアAI基盤、クラウドプラット上でしっかりと管理しながら、色々な企業と共創し、一緒にやらせて戴きながらビジネスが出来るエコシステムを構築していくことで、健康長寿社会の実現を支援していきたいと考えています。

司会:医療国際化推進機構 専務理事・事務局長 株式会社健康都市デザイン研究所 代表取締役社長 井垣貴子

本日はアカデミアと産業界・経済界の方が50:50くらいでお集まり戴いております。是非オープンイノベーションのエコシステムをこの関西で広めていくために、皆様win-win-winをしていこうではありませんか。企業発表や続くパネルディスカッション等聞かれて、今後講師や発表企業にご関心を持たれた方はアンケート用紙に御連絡を御記入戴ければ後日、当事務局よりマッチング及び御連絡をさせて戴きますので、オープンイノベーションの機会になれば幸いです。

第3部 パネルディスカッション
「世界に貢献するグローバルヘルスのリーダー人材育成」

第3部はパネルディカッション形式とし、共同座長に医療国際化推進機構理事長 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科学教授 日本再生医療学会理事長 澤芳樹氏、WHO健康開発総合研究センター 上級顧問官 野崎慎仁郎氏、パネラーに常翔学園理事長 久禮哲郎氏、大阪医科大学学長 大槻勝紀氏、兵庫医科大学学長 野口光一氏、大阪大学名誉教授 甲南女子大学教授 中村安秀氏にご登壇戴きました。

●共同座長
・澤芳樹氏 医療国際化推進機構理事長 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科学教授 日本再生医療学会理事長
・野崎慎仁郎氏 WHO健康開発総合研究センター 上級顧問官
●パネラー
・久禮哲郎氏 常翔学園理事長
・大槻勝紀氏 大阪医科大学学長
・野口光一氏 兵庫医科大学学長
・中村安秀氏 大阪大学名誉教授 甲南女子大学教授

澤氏:先程の基調講演、企業発表は非常に勉強になりました。そういう観点を頭に入れて戴きながら、何故人を育てることが今正に必要か、それが本当にイノベーションに繋がるのか、またそれがボトルネックをどうやったら解決出来るのかということを議論して戴ければと思っております。

野崎氏:私はWHOに勤める前に長﨑大学の教授をしており、日本で初めての本格的な公衆衛生大学を創りました。グローバルヘルス研究科という研究科です。これは医学部の中に無い独立した保険医療系の公衆衛生の大学でしたが、色々な日本のシステムの中で制約があり、随分苦労した思い出がございます。WHOに来て感じることは、世界の大学で例えばハーバード大学で石を投げれば、どんな国籍の人に石が当たるかわかりません。北京大学でも然り。では日本の東京大学で石を投げたらどうなりますか。日本人にしか当たらないですね。京都大学でもそうです。実際に石を投げることは無いのですが、少子高齢化で人口も労働人口も減っていく、そういう日本が21世紀に光り輝けるのか、これはイコール企業が必要とする人材が日本からどうやって生まれてくるのか、非常に強い危機感を持っています。連携大学院構想を大阪から発信していくコンセプトの中に、1つはウェルビーイングイノベーションを中心にしながら、誰もが健康で生き生きとした生活をエンジョイできる、健康長寿社会構築のためにアカデミア、企業、公的なセクターでも輝ける人材というのをどういう風に育てていくことが出来るのでしょうか。明治維新以降日本が光り輝いてこられたのは、正しく人材の育成があったからだと、私は信じて疑いません。本日は素晴らしい先生方にお集まり戴いておりますので、現状の日本の教育システムの中での課題、何故グローバル人材が育たないのか、解決策をどうすればいいのか、21世紀に日本が光り輝けるために教育はどういうことをしていけば良いのか。あるいはアジア、アフリカとどうしていけば良いのか。医療健康モデルというのはどんなものがあるのか、エコシステムと教育というのはどんなものがあるか等をテーマにお話を伺って参りたいと思います。

久禮氏:基調講演、企業発表を聞かせて戴いて、正に私たちが今目指している教育、研究、その方向性が一致していると感じました。私達の大阪工業大学梅田キャンパスは大阪の中心、茶屋町にあり、2017年4月に産学官体制でロボティクス&デザイン工学部を創りました。同時にここには知的財産専門職大学院があり、昼夜開講で定員30名の2年間ということで開講しています。ここでの教育の内容も正にイノベーション、グローバル、マネジメント。オールラウンドの人材を育てるということであります。

梅田での教育研究は、先程から出ていますスタンフォード、いわゆるシリコンバレーの方法であるデザイン思考による課題の解決ということです。様々なデータを分析、解析をして、デザイン思考によって課題を解決していくという形になっています。その為当然、イノベーションの人材が必要になってきます。デザイン思考というのは、民間の企業のようなお客様、ユーザーの視点に立った課題解決の教育といえるのではないかと思います。これは実社会の実際の課題解決法と同様に、アイデアを絞り込み、早い段階でプロットタイプを作り、テストを繰り返し、物を作っていくということです。

都市型のキャンパスの教育には様々な効果がございます。建物中にRDC(ロボティクス&デザインセンター)があり、人々が集まり、多様な人たちが課題を持ってこられる形をとっており、それらの課題を、教員学生が一体となって解決する手法を進めています。先程の企業発表の中でも、このような形、教育方法が求められていると思います。

同時に大阪商工会議所様と「Xport(クロスポート)」という都心型オープンイノベーション拠点も創りました。先程、澤先生のおっしゃったものと全く同じような形のクロスイノベーションの場です。これは会員企業を募り、様々な課題に挑戦していくもので、大阪商工会議所様の児玉常務理事が会長、私共の副学長の小寺教授が副会長を務めます。ロボティクス&デザイン工学部の先生に加え、このスタンフォード大学等から客員教授を迎え、グローバル化教育の一環としてやっております。学生は自分達が必要な知識の方向を、オープンイノベーションの中で感じて、そこで自分の弱点を感じるわけですから、語学力も含めて弱点に気付くということです。普段の授業には無いイノベーション教育で自分を磨いていきます。今までの教育システムの受け身の教育から、実際企業の方たちと議論しながらやっていくことについては気付きがあり、新しいことに興味を持つことにつながります。1年生の段階からそのような機会を作ります。これはRDクラブといい、学内インターンシップでは企業の方と交わり、1年生150名くらいが参加しています。上級生になりますと、産学連携の中で自分流の知識が身につき、この方法でなかなかの効果がでてきています。また、この方法は、ロボティクス&デザイン工学部に限らず、情報科学部や工学部でも進めていく予定です。このRDクラブは、企業11社と連携しており、今も連携企業数は増えてきていると思います。

また、ロボット手術の研究と人材育成ということで、ロボット工学科の河合教授のところでは、ロボット手術の研究をしており、研究室の学生は1カ月程度の病院の研修、手術見学、in vivo実験等を通して、現場での課題を見つけ、アクティビティの高い学生を育成しております。以上、大阪工業大学梅田キャンパスでのヘルスケア分野での具体的な取り組みをご紹介致しました。

野崎氏:グローバルの教育への本格的な取り組み等、1番印象に残ったのは企業との実践的な連携です。教育の中での実践的な取り組みについて非常に興味深いお話でした。

大槻氏:常翔学園様のグローバルのお話に感銘を受けました。私共は医療系の大学で、1927年創立で91年の歴史がございます。30の私立医科大学の内の偏差値が4番目か5番目、西日本では1位でございます。所在地は大阪市と京都市の中間の高槻市の阪急京都線の駅前で、非常に立地の良い場所でございます。大阪医科大学医学部、看護学部、大阪薬科大学、高槻中学校・高校を備えております。建学の精神は、医育機関の使命は医学研究と医学教育であり、研究は実地の医療に生かすことで活かされる、と私共は教育を受けて参りました。今現在、国内外問わず、医師の派遣、特に高知県、兵庫県西部への地域医療に携わる為に医師の派遣を年間約10名行っております。DMAT、JMATにも積極的に参加させて戴き、医療器具の発明、医療資材等の研究にも力を注いでおります。健康寿命の延伸を目指した「たかつきモデル」の実施では文科省から研究ブランディング事業として年間5000万円の補助金を戴いております。

WHOの取り組みですが、高齢化スマート社会諸国における健康寿命延伸にオーラルケアが有効であるといわれ、口腔内のマイクロバイオーム、バクテリアと疾患には関連性があるとみられております。口腔内の細菌はもしかしたら脳血管疾患、肺炎、心臓、糖尿病、様々な疾患に影響を与えているのではないかということが示唆される論文が出てまいりました。400種類ある口腔内細菌を調べて疾患と関連付けた研究はほとんどありませんが、次世代のシークエンサーを使うことによって個人の口腔内の特異性がみられ、基礎的な研究を行っています。高槻市民から今現在1400サンプル戴いておりまして、その中でエビデンスとしていえることは、個人には細菌の特徴、バクテリアの特徴があるということは既に明らかでございます。成人病、糖尿病、高血圧、動脈硬化等におきまして、ある種のバクテリアが関与しているということも、今現在わかっている事実でございます。今後はオミックス等、そういう物質が何であるのか、関係性を見ていき、検査試薬、あるいは機器の開発と言った方向に向けていきたいと思います。今相当なビッグデータが集まっておりますので、公開することによって、是非企業の方々にもお力を貸して戴ければと思っています。「たかつきモデル」は産官学の事業で、医学部においてはゲノム解析、歯の健康は高槻市に本社があるサンスターさんと一緒に健康寿命に関わる商品・試薬の開発、官では高槻市と協定書を結び、市民参加型の事業を行っております。1つは口腔フレイルで、噛む、飲み込む、舌圧等を検査し、個人にお返して、特に嚥下性の肺炎により高齢者の中では非常に死亡率が高くなっていますので、情報を公開しながら個人を健康にするようにしています。

大阪医科大学では、医学研究科修士課程を2020年度開設予定です。まず企業が何を求めているのか、あるいは医療関係者、行政等はどういう人材を今求めるのか、アンケート調査を行い、医療科学コース、社会健康医療学コースの2つの構想にしております。医療科学コースでは理工系、医療機関、メディカルスタッフの方々に入って戴き、終了後の進路は医療機器・機材の関連企業、あるいは元の職場でのキャリアアップ等に繋げて戴きます。社会健康医療学コースは行政、医療経済学を含めた医療統計学、データサイエンス等を中心に、社会人枠もありますので、働きながらマスターを取って戴き、行政や医療機関、企業へお返しする構想を抱いております。皆様方とのプラットフォームの構築にも参加したいし、連携大学院構想にも大阪医科大学としても是非とも参加していきたいと思っております。

野崎氏:健康寿命の延伸というテーマで「たかつきモデル」、口腔フレイル、企業が必要とする人材を育てるという明確な目標を持った修士課程の設置という非常にビジョンのあるお話を戴きました。

野口氏:私は大阪・天王寺生まれで京都大学工学部を卒業してから、阪大の学士入学で入学し、澤先生の3年後輩、年は1歳下で、兵庫医科大学には25年前に赴任し、2年前から学長をしております。梅田から13分、武庫川の駅前にあるのが兵庫医科大学で、今年4月に竣工した教育研究棟、日本で1番新しい学び舎で本学の学生は教育、研究者は研究をしております。6年後には日本で1番大きい新病院を建てようと頑張っているところでございます。兵庫医科大学は初代森村茂樹先生により昭和47年に開校し、47年経ちました。兵庫医科大学の1つの特徴としまして、国際、国外との交流を、単科私立医大として一生懸命やってきたという歴史があります。私が学長になってからも、ドイツのザールラント大学と学術交流を結び、現在は12大学、それ以外の単純な交流ということでは20以上の大学に学生を送ったり、また研究者が来たり、ということをしております。同じ法人で兵庫医療大学を神戸ポートアイランドに創りました。11年目に入り、薬学、看護学部、リハビリテーション学部の3学部を持ち、学校法人と致しましては医学部を含め4学部の総合医療大学として進めて参りました。チーム医療をキーワードとして4学部の学生が同時にチュートリアル教育、共同教育をするという、医学部の学生と薬学部の学生、看護、リハビリの学生が一緒になってチームで学び、一緒にディスカッションする教育体系をとっております。また兵庫医科大学は開学当時から色々な大学出身の方が集まり、現在教授だけみましても20大学以上の出身者がおり、関西及び全国からかなり有名な先生方が集まっており、臨床面、教育面、研究面でも頑張っているところでございます。

森村先生が創られた建学の精神では、社会福祉への奉仕が1番にございます。人間の深い愛というのがトップに来ているところが多いのですが、創立者の森村先生の非常に強い思いがあり、本学では社会福祉への奉仕を最初に持ってきています。社会の福祉に貢献出来る医師を育てたいということです。気の良い優しい男性、女性の医師、既に4千数百名の医師が育っています。私は解剖学の教授を長年やってきましたが、私が解剖実習を教えた学生も既に2100名程医者として巣立っております。

今回のシンポジウムのテーマから、社会福祉というものを考えますが、我々の医科大学の状況をみますと、国際的な社会という意識がなかなか本学の教員及び学生には無いのかなと思います。日本の中で良い医者を育てたい、もしくは日本の社会の福祉に何とか貢献したいという思いは皆強く持っています。その中で如何にそれをもう少し広い視野で広げていくかというのが、我々の次の使命ではないかと、本日のシンポジウムで強く思ったところでございます。大学ランキングの教育リソース部門というのがございます。これは1人当たりどの程度お金かけているか、教育に力を入れているか、教員が論文をどれくらい書いているか、学力がどれくらいあるか、資金獲得数があるかということです。点数の付け方にもよるのですが、兵庫医科大学は私立大学でトップという、驚くような数字になっています。これは単科医科大学ということで非常に数字が高く出やすいようで、総合大学だとこういう数字が少なくなる学部が含まれていますので、これはあくまでランキングの数字のトリックではありますが、単科医科大学の中では1番だったということです。臨床面でも頑張っておりまして、特に脳外科、心臓外科、眼科、リハビリ、外科と、西日本で非常に有名な先生を意識的に集めるようにして、大阪梅田に近い大学として臨床面でも診療面でも頑張っております。それから共同研究という面でも是非皆様と色々お願いしたいと思っています。どうしても阪大出身が良いのはわかるのですが、企業にとって、大阪大学、京都大学はもしかしたらハードルが少し高く、少し美味しい話しか受けてくれない可能性もあると思うのですが、その点、本学は敷居が低く、色々な面で融通が利きやすく、実際のレベルでも非常に高い教員が揃っていますので、是非お声を掛けてくれればと思います。

グローバル人材の育成について、現在の医療界・医学界で各医科大学は、国の要求、社会の要求で精一杯という面があります。医者の働き方改革で医師不足があり、自前で良い医者を揃えるとことでアップアップしている中でどうやってグローバルな人材を育てるかというのが今、非常に大きな問題と思います。澤先生や我々の時代に比べて、海外留学をしたいという医学生が非常に減っています。日本で十分という学生が非常に多くなっている時代に如何に海外にも目を向けるか、もしくは海外の人と一緒に仕事をするということに対して躊躇しない人材を育てるという点で、色んな留学の機会を増やしたいと思っています。本学においても上位20%、30%に、非常にアクティブに外に出ていきたいという意志を持っている学生が多くいますので、そういう学生を色々鼓舞してグローバルな人材を育てるような大学にしたいと思っております。

医公連携、医療社会福祉、国際保健等の分野で国際的な人材を育てる場が、連携大学院という場で出来ましたら、是非本学も貢献する方向で前向きに検討したいと思っております。

野崎氏:野口学長、有り難うございました。兵庫医科大学、兵庫医療大学の取り組みのチーム医療は全国でも非常に有名な話でございます。実はチーム医療というのは、全世界の医療業界の中でキーワードになっていまして、それぞれの職種がスキルミックス、あるいはそれをカバーし合いながらやっていく医療というのは非常に大事だということです。また企業にも敷居が低いということで、色々な可能性を兵庫医科大学から感じられるのではないかと思いました。続きまして、甲南女子大学教授、大阪大学名誉教授の中村安秀先生から宜しくお願いします。

中村氏:大阪大学にいた時は、澤先生が阪大の国際医療センターを創られる時にお手伝いさせて戴き、一緒に汗を流して準備させて戴きました。今は日本WHO協会の理事長もしています。企業の方たちにもお世話になり、WHO等にインターンに行きたいという、若い人達に金銭的なサポート等をしています。

10年くらい前に、国際保健分野、まさにグローバルヘルスの人材育成の在り方に関する厚生労働省の研究班の研究代表者をさせて戴いたことがありました。その時到達した3つの要素は、1つは長期的視野を持つこと、2つ目は学際的な土壌から人材が育つということ、そして3つ目は海外での経験を国内に生かし、国内での経験を海外に生かす、ということでした。その中で、国際保健医療のグローバルヘルスの場がかなり大きく広がっています。日本国内の中の日本人に関する部分もそうですし、日本国内の中の外国人に対する活躍の場、インバウンド医療といわれていますが、在留外国人が256万人います。訪日外国人は2800万人になり、在留邦人、在留外国人の数は史上最高を更新し続けています。多くの日本人が海外に行き、海外から多くの人が日本にやってくる中で、アウトバウンド医療は、新興国が約10億人に対し中低所得国の人が約50億人、市場という意味では本当に大きく広がっているのが現状です。昔は日本人による日本にいる日本人の為のヘルスでしたが、それが大きく変わってきているのだと思います。

国際保健に関わる様々な職種ですが、医療専門職の医師、助産師、看護師、保健師等だけではなく、公衆衛生学修士、英語でいうとmaster of public health、いわゆる文系の人たちが国際保健の場では大活躍しています。その他の専門職、医療経済学、病院管理学、医療人類学というのも国際機関には沢山います。社会学、教育学、コミュニケーション、マーケティング、視聴覚教材専門家等、本当に多くの人がヘルスという分野に関わっているのが現状です。

そういう中で嬉しいことに、グローバル人材の育成に関する学会が最近益々充実してきました。古くは日本公衆衛生学会。これは最近、大阪大学の磯先生が理事長になっています。日本熱帯医学会。そしてこの辺が古いところですが、日本国際保健医療学会というのが、30年少しで会員数200名、医師、看護師、歯科医だけではなく、JICAや国際機関の人も入っています。この理事長を私がさせて戴いています。トラベルクリニック等の学会に日本渡航医学会というものもあります。そして最近では、創る時に澤先生と随分苦労しましたが、インバウンド医療、アウトバウンド医療、医療通訳士の認証等をやっていきたいということで、国際臨床医学会というのが2016年に出来ました。大阪に結構理事長がいますから、1つにまとまった方が良いのではないかと、そんな気が改めて致しました。

学際チームによるインドネシアのインド洋津波支援の写真です。かつて文科省が作った世界を対象としたニーズ対応型地域研究で、私達は学際調査ということで大きな研究班を作りました。インドで何かしたい時に驚く程日本にインドの専門家が多くいますし、アフリカで何かしたい時に、アフリカで長年研究をしていてスワヒリ語が出来るという専門家がいるのです。そういう人たちと一緒になって何かをやろうということで、学際チームを作って研究しました。その中にはNGO、NPOもいました。本日は企業とのお話がメインですが、将来的に私は、NPO、NGOとの協力も大事だと思います。そして国際機関もそうです。本日は野崎さんがいてくれているので大丈夫ですが、今後協力する時に、大学と企業だけでなくて国際機関を巻き込みながらやっていくと良いと思います。交じり合うことから何か新しいものが始まる、これが私たちのキャッチフレーズでした。そういう中で学際というものについて1つ考えたいと思います。学際的研究のスタートラインで、最近はTrans-disciplinaryというのがよくいわれるようになりました。要するに色々なものをバラバラにやるのではなくて、交じり合って融合することがTrans-disciplinaryな世界になる、ということです。

グローバルな人材育成について、30年くらい前にインドネシアの電気、水道の無い村で、JICA専門家として働いたことがある目から見て、グローバル人材への早道を4つ考えてきました。1つは高度先進医療から、予防医学、リハビリテーション、緩和ケア、社会福祉等プライマリヘルスケア医療までのスコープを持つこと、2つ目は、医はアートです。将来的には哲学や文学まで含めた学際アプローチで臨みたいと考えます。3つ目が交じり合うことです。大学院生なら外国人、社会人等、色々な人が交じり合うのが良いと思います。

最後になりましたがキャンパスを綺麗にするのも大事かもしれません。私、今毎日女子大にいますが、この前阪大に戻って集中講義をしました。木は生え放題、落ち葉はそのまま、自然のままと言えばそうなのですが、グローバルの時代にはキャンパスを綺麗にするのも大事と感じました。

野崎氏:キャンパスを綺麗にするという発想は、国立大学出身者には持てないと弱みかもしれません。中村先生は長年国際保健、今の言葉でいうグローバルヘルスとなる遥か前から活躍されて、日本の母子保健手帳を世界に広めたミスター母子保健手帳と呼ばれている先生です。

澤氏:最初に申し上げたように、座長も含めてこの6人の教育者は、それぞれ非常に強い理念を持ってこれまで人を育ててきた教育者であります。教育者というのは次元がずれていて、社会的にどうもはみだし者というか、あまり役に立ってないのではないかと思われるかもしれませんが、少なくともこの6人はそれに気付いて、今から何をしようかと考えています。企業の方がこれだけ集まって下さっています。win-winという言葉が私は大好きなのですが、それぞれの企業の方々が、社会に役に立つ人を育てようというのが皆様共通のポリシーのような気がしました。大阪大学医学部の修士は20年程前に、日本で1番先駆けの国立大学として創りました。最初の頃は、本当は医学部に行きたかったという極めて優秀な方が来られて、基礎研究で教授になりたいということでしたが、最近は違います。残念ながら医学部修士というタイトルがどうしても先行してしまっているようです。何故そうなっているかというと我々の教育が間違っているからです。社会に役に立つ、企業が欲しい人を育てていないから学生たちが自ら一生懸命就職活動をしてしまうのです。就職が決まったらやっと実験室へ来るという、これは逆だろうということに気付き、私が医学部長の時に更にそれを広げようということでさっき申し上げた修士課程をつくりました。皆様同じことを共通して考えておられて、医学部が育てうるポテンシャルはもっと幅広く医者や看護師だけではなく、もっと沢山の必要な人材が我々の中にイメージとしてあって、それをどうやって育てていこうかというのが本日の集まりの趣旨だと思っています。そんなことで、グローバル人材を育てる為のボトルネック、ガラパゴスとよく言われる日本が、本当にグローバル人材を育てられるのか、ボトルネックを今どう感じていますか。

野口氏:兵庫医科大学の学生を見ていますと、グローバルや海外というものは、彼ら・彼女らにとってはあくまでも海外旅行に行くところで、なかなか接点が少ないです。出来るだけ接点を増やす努力はしておりますが、自分たちの仕事として、国際的な未来もあるという感覚を持っている学生が極めて少ないです。これは我々の責任でもあるわけで、そういう場を如何に提供出来るかというのがポイントだと思っています。そういう機会を提供出来れば、それこそ連携大学院の場で国際的な学生と交流することによって、自分の道はもしかしたらこっちにもあるかもしれないという気付きがあれば展開が変わると思います。今はあくまで家の病院を継ごうという学生が8割9割であったとしても、残り1割の子が世界へ羽ばたけるような場を創ってあげられればと思っています。

澤氏:今の状況だと学生の意識を目覚めさせるような場が少ないということですね。

野口氏:少ないですね。一部上位の学生がドイツ等海外へ留学して、1人もしくは2人は別人になって帰ってくるのですが、それはごく一部で、100人のうち10~20人くらいです。それを如何に増やすかをいつも考えています。

大槻氏:今確かに、野口先生がおっしゃったように、総合大学だとまた別ですが、学部が限られた大学ではなかなかグローバルというのは難しいなと感じています。ただ、大阪医大はそもそも何のために創られた大学かというと、昭和2年、1927年、金融恐慌の時代に金融の破綻が起こり、職が無いのでハワイや中国やブラジルに移民団が結成されて行き、その時に日本人の移民団に医師が少ないということが国中で問題になり、その為に創られた大学なのです。今、提携大学は10弱あります。シンガポール大学、台北医科大学、北京大学、そういった大学へ留学生を派遣あるいは受入を積極的にやっていきたいというのが向こう1、2年の計画です。国際認証を本学も12月に結果を戴くことになっていて高い評価を戴いています。5、6年は臨床実習ということですので、国際認証を受けたアジアの大学とは5年制くらいで1ヶ月くらい留学が自由にできる、そういうことをうまく利用していきたいと考えています。

久禮氏:おっしゃったように、学生達にとってなかなか機会がありません。色々多様性の時代だというのに機会に乏しいということで、自分と違う人、特に外国の人と、文化、芸術、色々なことの会話ももちろん出来ません。機会が少ないというのがそもそもの原因だろうと思います。ただ先程企業の方の色々なプレゼンを聞き、企業の人と交わると国際的な話が出来る、知識も出てくる、そうすると興味を持って語学を磨こう等、色々なことに繋がっていくだろうと思いました。私がヘルスケアの企業に長くいた時、製品が国内で上手く成功すると、当然のことながら海外戦略へと動き出すのですが、交渉の中で、サイエンスの連中は英語が下手で、英語を専門にしているような人はサイエンスを理解しておらず、両方出来る者はいないのかという話で苦労したことが多くありました。

澤氏:では中村先生。かつての中村先生のような人が減っている、ということですけれど、そのボトルネックをどう考えておられますか。

中村氏:2つのことを申し上げたいと思います。澤先生が、win-winが好きだとおっしゃいましたが、最近このグローバルヘルスの業界では、win-winだけでなくてトリプルwin。対象とするコミュニティもwinにしないといけない。それは正に近江商人が江戸時代にいっていた「三方よし」です。売り手よし、買い手よし、世間よし、ということです。これでないとヘルスというものは上手くいきません。売り手と買い手だけでなく、コミュニティ、世間よし、これトリプルwinです。トリプルwinを目指せば良いのではと思います。

もう1つ、昨日とても嬉しいことがありました。それは私が甲南女子大学の看護学部で学生達にこのグローバルのことを話しました。その中の看護の学生で、WHO協会、国際保健医療学会と一緒になって、グローバルヘルスのセミナー等を企画していた学生がいたのです。そんなグローバルな道に引きずり込んで良いのだろうかと思っていたのですが、昨日偶然そのお母様に会い、「うちの娘に好きな道を見つけさせて下さって本当に有り難うございます。大学に行って、そういうのに触れさせて戴いて良かったです。」と、とても感謝されました。今の若い学生さんには色々な知識もあり、情報もインターネットで手に入ります。でも体験が少ないですね。色々体験させるなかで、学生達が何かを得たら変わっていくと思います。体験の機会を日本国内、国外含めてこれからも提供することが、大学としての大きな役目のひとつという気がしています。

澤氏:野崎先生から先生の経験を基に、どうすればグローバルな大学院構想を実現出来るかということをお話し戴ければと思います。

野崎氏:大学はグローバルになっていないのですが、企業はとうの昔にグローバルになっています。日本の企業というのは世界と戦っている企業ばかりです。なぜかアカデミアだけがなかなかグローバルになれていない、そんな気がしてなりません。

私がいた長﨑大学に、熱帯学研究所という日本に1つしかない研究所があります。蚊の研究しかしない、マラリアのことしか知らない、日本にはもうずっと前からいない日本住血吸虫の研究をしている等、そんな先生ばかりです。でもアフリカから沢山学生が来ます。長﨑大学の医学部キャンパスを歩いていると、アフリカの方を結構見かけます。学生達も自然にハーイ、ガーイズ!等と会話しているのです。そんな環境の中、少しずつ国際感覚が養成されて、長﨑大学には国際的に働こうという学生が多いわけです。色々な反対があったのですが、長﨑大学のグローバルヘルス研究科を創る時に、アジア・アフリカの学生を沢山入れようと、勿論中国人、韓国人の学生も多いのですが、それだけではなく、アジア・アフリカの優秀な学生を何とか取りこむ制度が必要ではないかと。アジアで優秀でお金のある学生は日本に来ません。ハーバードやロンドン大学、シンガポール大学、香港大学に行った方が遥かに有名なわけですから。アジア・アフリカの学生で、お金がないけれど勉強したいという優秀な学生をとるための工夫をすることもこれからの大学院構想の中で検討していけば、色々な意味で三方よしの話に繋がるのではと思っています。

澤氏:本日非常に重要なポイントとして、グローバル人材を育成する、教育の仕組みは絶対に必要というのが共通の理念と思います。では何故それがボトルネックとして日本で出来ていないかというと、日本の事情の中でそういう場を保つことが出来ていない、そんな環境が少ないことです。今、教育の現場では色々なことで追い詰められて、大阪大学でも同じような環境にあり、そこに時間を取られています。一方で、企業はグローバル化し世界と戦っているのに、何故大学だけがグローバル化していないのかというのが、突き刺さるような話です。大学の教育は皆日本語で、英語ではやっていません。そこで海外に学生を送り込んだ時に躓いてしまう、言語の問題が大きくなってくるわけです。しかし、やはり優秀な人材は大学から泉のごとく生まれています。この生まれてくる人材が企業に行ってからではなく、企業と共に企業の必要な人を育てるのが次のミッションだとしたら、この大学院構想において企業の方に一緒に入ってもらい、企業の方と共に創りたいと思います。我々は壮大な色々なことを申し上げましたが、それが本当に正しいのか企業の方にこんな人欲しいという人を、一緒に考えて戴いた大学院の方が、グローバル化も出来ますし、ブランド化もして、大きく発展していけるのというのが1番のポイントと思っています。そうなって初めてトリプルwin、三方よし、と思いました。先生方、どうも有り難うございました。

野崎氏:皆様、本日は本当に有り難うございました。私は3年前に神戸に赴任しまして、その前4年間スイスのWHOのジュネーブ本部にいました。3年前に神戸に来た時に本部の幹部から言われたのは、神戸を立て直せということです。神戸を建て直して世界に役立つ神戸になるなら何をやってもいいと言われました。神戸センターが神戸や関西に役立っているか、日本の為に役立っているか、世界の為に役立っているか。クエスチョンです。先程から三方よしという言葉が出ていますが、WHOの為にもなり、神戸、兵庫、関西、日本、世界の為にもなる、そんなWHO神戸センターにしようと私は誓いました。健康開発総合研究センターというのは世界でただ1つの研究センターです。実は日本センターではないのです。是非使い倒して戴きたいと思います。本日の話で大変わくわくしています。これだけの大学の先生が一緒に何かをやっていこうというところで、私達WHOも参加していきたいと思います。澤先生から連携大学院という言葉が出ましたが、名前も含めこれから検討するに際し、WHOとしましても出来るだけ皆様と一緒に協力していきたいと思っています。既に色々な大学に講師を派遣したり、インターンシップを受入れたり、関西のアカデミアと協力させて戴いておりますので、日本にある国際機関、国連機関の中で最大の事務所が神戸にあります。是非皆様の資産としてご活用戴ければと思います。どうも有り難うございました。

澤氏:最後に、皆様のお手元の資料の中にあります大阪サンタランは10回目になりますが、やしきたかじん氏が始めた催しで昨年6000人、その前は10000人参加されて、参加費から昨年は10の病院のクリスマスの時にお家に帰れないお子さんへプレゼントを1000人に配りました。これは心温まる優しい話であり、大阪のノリもあって10回続いてきたのが、今年は東京でもやるということで、本日ここにいらしている企業の方々にも是非ご協力をお願いしたいと思います。

司会:一般社団法人医療国際化推進機構 専務理事・事務局長 株式会社健康都市デザイン研究所 代表取締役社長 井垣貴子

是非、企業様の経営手腕を活かして戴き、大学、WHOと協力しウエルビーイングの大学院を創りたいと思います。当医療国際化推進機構が大学院構想の事務局を担っていますので、ご興味のある方は事務局にメール下さいませ。夢洲での万博やIR、中之島、うめきた2期、ウエルビーイング産業は全ての人々を幸せにする産業で関西から世界に貢献できると思います。本日は誠に有難うございました。

シンポジウム後は、交流サロン「サロン・ド・ラミカル」において、医療国際化推進機構の浮舟副理事長(滋慶学園グループ総長)の乾杯の発声のもと、情報交換会が盛大に開催され、講師も交えて多くの参加者による活発な交流と意見交換が行われました。