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「第8回 医療と産業の国際交流シンポジウム in関西」開催

「第8回 医療と産業の国際交流シンポジウムin関西 ―超高齢社会日本から世界へ―未来医療と産学連携が切り拓く未来医療健康都市への期待」を、2016年4月2日に大阪大学中之島センター・佐治敬三メモリアルホールにおいて、当一般社団法人医療国際化推進機構が主催し、開催させて戴きました。経済産業省近畿経済産業局様、大阪府様、大阪市様、一般社団法人関西経済同友会様、公益社団法人関西経済連合会様、大阪商工会議所様、一般社団法人日本医療機器産業連合会様、一般社団法人Medical Excellence JAPAN様、大阪国際フォーラム様、JICA関西様からご後援のご支援を賜り、厚くお礼申し上げます。年度初めの土曜日にもかかわらず、医学界、経済界、学界、経済団体、行政機関などから160名を超える方々にご参加戴き、心よりお礼申し上げます。

開会のご挨拶

京都府立医科大学 学長 / 医療国際化推進機構 理事長 吉川敏一氏

年度初めのお忙しいところお集まりいただきありがとうございます。本日は第一部では私を含めて4名の先生方にお話していただきます。最初の岡野先生と澤先生には再生医療の最先端の研究について、河上先生にはガン免疫研究の最新について、私は未来医療健康都市をどうやって作っていくかというテーマでお話致します。第2部のパネルディスカッションでは超高齢社会日本から世界へ ~産学連携が切り拓く未来医療健康都市への期待~と題して最先端の研究から都市再生まで幅広い内容で展開して行きたいと思っておりますので、どうぞお楽しみ下さい。

第1部 ご講演「高齢化が進む世界をリードする最先端未来医療」

以下に講演内容の要約を掲載致します。

講演1:慶應義塾大学 医学部長 岡野 栄之 氏
「iPS細胞技術を用いた中枢神経系の新しい医療」

脳血管障害や外傷などによる中枢神経の損傷はこれまで再生不可能と考えられていたが、受傷後3週間から6ヶ月くらいの急性期であれば神経幹細胞を移植し、神経細胞を保護する作用をもつ肝細胞成長因子(HGF)を投与することにより神経再生が可能である。また、同様の事象がiPS細胞由来神経前駆細胞を用いても再現できることなどをマウスやサルを用いた動物実験で確認している。現在はヒトの筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳梗塞や脊髄損傷の治療に関する臨床研究を進めているところで、さらには急性期に対応するためにiPS細胞バンクを設立し、すぐに細胞が利用できる体制を整えつつある。また、家族性アルツハイマー型認知症のヒトの体細胞から作成したiPS細胞由来神経前駆細胞では、3ヶ月程度でアミロイド蛋白の産生が正常のヒトから作成したiPS細胞由来神経前駆細胞よりも過剰に産生されることがわかった。これらの技術を応用すれば、早期の認知症診断ができる可能性があり、創薬への可能性や発症前に治療を開始し、発症を予防できる可能性がある。

講演2:大阪大学大学院 医学系研究科長 医学部長 澤 芳樹 氏
「未来医療によるひとづくりものづくりまちづくり」

心筋機能不全に対する、足の筋肉を用いた自己骨格筋芽細胞シート移植の臨床試験を進めて、ハートシート(テルモ)という製品開発に至った。その間、技術的な問題をクリアすることが難しかったが、tissue enginiaring(組織工学)の技術を医療に応用することにより、臨床応用が可能になった。また、新たな再生医療製品に対する薬事承認をとる事も大きなハードルの一つであり、初期の段階では、承認対象が医療機器か医薬品なのかという分類しかなく、最終的には薬事法の改正に伴いハートシートの薬事承認を得ることができた。現在ではiPS細胞由来心筋細胞用いたシートを開発し、臨床に応用すべく研究を進めているが、我が国発の新たな技術や製品を、我が国から世界に発信(適正な時間、コストで開発)するには基礎研究から製品化までを見据えた橋渡し研究の推進、および「条件・期限付き早期薬事承認制度(特区内拠点での試行)」は必須である。さらにこれからの医学医療はBig Dataを活用した予測医学/先制医療の方向へ向かう必要があり、そのための、新たな国際健康・医療産業拠点となる新しいまちづくりが必要である。

講演3:慶應義塾大学 医学研究科委員長 河上 裕 氏
「日本における産官学連携体制の再構築による最先端個別化がん治療の開発」

日本における死因で最も多いがんに対する治療について、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 (AMED) 「ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジ ェクト」 では、がん研究に係るプログラムの今後の在り方に関して検討している。がんの発症・進展・再発に係る代謝やタンパク質問相互作用に着目した治療法の研究や体内のがん細胞を取り巻く環境を制御し、患者の免疫機能を強化してがんを駆逐する革新的治療法の研究など、最新の分子生物学的な研究を土台にし、個別患者さんに応じたテーラーメイドの治療法、いわゆるプレシジョン医療を確立することが大切である。そしてそのためにはアカデミアシーズの効率的な企業への受け渡し、企業治験におけるアカデミアによる病態解析、日本のがん患者ネットワークの構築と臨床検体収集システムと各種システム生物学的解析拠点の整備が必要である。

講演4:京都府立医科大学 学長 吉川 敏一 氏
「オープンイノベーションによる新産業・未来医療健康都市・国際人材育成」

これからはプレシジョン医療が重要であり、そのための医療・健康領域の多様なシーズ、ニーズに対応するためには、複数の大学・学部・研究室と産業界、行政の“多対多”のネットワークシステムが必要であり、ビックデータによる解析を応用し、医療・健康領域において我が国が世界のトップランナーとなるためには、ネットワーク型オープンイノベーションのプラットフォームが必要。そのためには関西および全国の活力を活かし、健康・医療・産業のグローバル・オープン・イノベーション、クロス・イノベーションを実現させることが望ましい。そして、そのシステムを核として医療を包括的・統合的にマネージメントできる次世代人材を育成するためには医科系大学が連携するグローバルアカデミアキャンパスを創生する必要がある。それと同時に、健康で安心に暮らせる魅力的で活力のあるまちづくりを目指した未来健康都市(ウエルネス関西スマートシティー)を創生し、ひとりひとりの健康と生きがいと笑顔のあふれるまちづくりをしていくことが重要である。

第2部 パネルディスカッション

第1部に引き続き、第2部ではパネルディスカッション形式とし、超高齢社会日本から世界へ ~産学連携が切り拓く未来医療健康都市への期待~ というテーマでお話していただきました。座長は京都府立医科大学 学長 / 医療国際化推進機構 理事長 吉川 敏一 氏、パネラーは、第一部の先生方に加え、近畿大学学長 塩崎 均 氏、塩野義製薬(株)取締役・専務執行役員経営戦略本部長 澤田拓子氏、阪急電鉄(株)不動産事業本部都市マネジメント事業部長 谷口丹彦氏、サラヤ(株)代表取締役社長 更家悠介氏、ダイキン工業(株)テクノロジー・イノベーションセンター・リサーチ・コーディネーター/日本機械学会フェロー 伊藤宏幸氏に登壇していただきました。

以下に講演内容の要約を掲載致します。

● 近畿大学学長 塩崎 均 氏

近畿大学は医学部をもつ私立総合大学として、東日本大震災で大きな被害を受けた川俣町の復興支援事業をおこなってきた。被ばく量測定による科学的なデータをもとに、いち早く日常生活を安心して行えるようにしたり、医学部や文芸学部を中心とした医療相談や、理工学部・薬学部を中心とした放射線汚染物質の減容化、除染、あるいは農学部、生物理工学部を中心としたトマト、サツマイモの水栽培、アンスリウム栽培の全国展開など、全ての学部の協力を得て“オール近大”プロジェクトとして行うことにより、被災地の復興をより効率的かつ包括的に支援することが出来た。国際貢献としては、魚の養殖技術などの技術をマレーシア等に輸出したり、その他医師の交流などもサポートしている。特に医療の国際貢献においては、医学系大学が単独で行うには限界があり、関西の医科大学、大学医学部の人材交流育成事業を進め、医療機器開発等に関しては関西の産官学共同研究を進めていくことが最も望ましい。

● 塩野義製薬(株)取締役・専務執行役員経営 戦略本部長 澤田 拓子 氏

ビックデータの活用がよく話題になるが、法律的な問題もあり、実際に活用することは大変難しい状況である。それを解決するための新たな試みとして、生活実証都市を開発することを提案。そこでは、生活関連データの提供を前提に居住者に移住してもらい、世界に先駆けて「生活実証都市」を構築する。そのメリットとは、住民側は他の地域に先駆けて、先進的な製品やサービスをモニターとして享受することができ、一方研究機関や企業は生活に関連するヒト・モノ・カネ・情報に関するビッグデータの集積が可能になり、新製品・サービスの検証・モニターに関する良い環境が構築できる。また、モデル都市では医療機関・医療産業に限らず、IoTなど種々の産業も含めての実証に加えて宣伝効果も期待出来ることである。行政に関しては労働人口の増加、産業クラスターの誕生や地域振興のモデルになること、居住者に対しては前述した通り最先端の製品・サービスを享受できることに加えて新製品や環境整備の改善への提言による社会貢献、あるいはデータで見守られている安心など、多方面で多くのメリットが享受できる可能性がある。

● 阪急電鉄(株) 不動産事業本部 都市マネジメント事業部長 谷口 丹彦 氏

阪急阪神グループの経営基盤・強みは、沿線のステークホルダーと共創した価値・魅力であり、それらをさらに高めるために「地域の共有価値を、地域と共に創造する(Creating Shared Value with Community)」という事業視点から、健康・シニア分野においては、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」構築を目指している。そうした中で、これまで訪問介護やデイサービス、総合サポート事業などのシニア向けビジネスをいくつか展開し、さらに、オープン・イノベーションで新たなビジネスモデルを実証するための取組みも行ってきた。具体的には、予防サービスのリビング・ラボとして、梅田駅の健康カフェや気軽に参加できるひとえきウォークイベントなどの企画、健康マガジン・健康サイト・健康アプリなどによる情報発信や数値管理などを実施・検討している。今後もこれまで以上にグループと産・官・学・民のリソースを連携させることで、「健康になるまち」、「健康寿命の延びる沿線」を実現させていきたい。

● サラヤ(株)代表取締役社長 更家 悠介 氏

今は激動期で、パラダイム・シフトが起こっています。日本で生まれたインベーションを海外に展開していくためには、一つの大学などが単独でできるわけはなく、幾つかの大学や医療/研究機関が役割を分担し、情報を集め、データの集積/解析やAIによる分析など、ネットワークを通じて、関西全体が一丸となって動くシステムの構築が必要だ。医療の国際展開に関しては、関西には良い大学群があるので、医師だけではなく、コメディカル、パラメディカルと協働して研修や教育のネットワークをつくり、海外の方が日本に来て日本の医薬品や機器を使い、その経験を本国に持ち帰るようなシステムが大切である。そして、それが日本のイノベーションの海外普及につながる。ASEANだけではなく中国も視野に入れた国際展開が必要だ。また、再生医療や高度医療を進めるためには、スピーディーな製品開発が必要であり、そのためには産業プロセスの新たな構築が不可欠で、国の許認可制度も含めてプロセス全体を考えなおす必要がある。また、予防医療に関しては、食、衣料、スポーツなども大切になってくる。薬だけではなく生活全体を考えて、健康のために、事前に介入することを産業に繋げていくという発想が大切である。

● ダイキン工業(株)
 テクノロジー・イノベーションセンター・リサーチ・コーディネーター
 日本機械学会フェロー
 伊藤宏幸氏

現在、ダイキングループにおける研究開発のコア拠点として、 社内外の知恵を結集する目的で新設されたテクノロジー・イノベーションセンターに所属している。現代の先端技術の産業化にはグローバル市場の開拓が必須である。ところが半導体産業にみられるように、単純な水平展開だけでは新興国の生産拠点に対して競争力を失ってしまう。一方で、アップルのiPhoneが良い例であるが、ものづくりの部品レベルではオープンにしてエコシステムを形成しつつ、コアな仕掛けの部分に関しては徹底したクローズ戦略をとる企業が成功している。これがオープン&クローズ戦略であり、医療健康分野を含めてグローバル展開を目指す産業においてはこの戦略が重要である。さらに、これまでの製品やサービスの開発においては目的が明らかで環境も予測可能であったが、価値観の変遷のスピードが速く、それらを俯瞰的立場から同時に定めていく共創的解探索を効率的に行うことがシステム設計の課題となっている。

以上、それぞれのご講演が終わり、パネルディスカッションに移りました。

座長 吉川 氏:関西を中心として、未来医療健康都市への期待ということが今回のテーマですが、関西では4つの公立医科系大学、私立の4つの医科系大学、4つの国立医科系大学が一丸となって進めていこうとしていますが、東京では如何でしょうか?

岡野 氏:関西はまとまりやすい雰囲気があり、すごい力になると思っています。東京には13の医学部が密集している。私の神経再生に関する領域では、関西の例のように、慶応を中心として多くの症例を集めることが出来ており、今後は関西とも協力したいと考えている。実際、慶応大学、東京医科歯科大学、順天堂大学はかなり密接な関係にあります。

河上 氏:関西の事情は知りませんが、そういった連携をとっておられるのであれば、とても羨ましい。東京では状況は複雑であり、組むと行ってもバラバラな動きしかしていない。実は我々は西日本と組んで肺がんの検体を集めるプロジェクトをしているが、関東はまだまとまった一つの拠点にはなっていない。大学間のランキング等は変な格差を生むのであまり良くないと思っています。

吉川 氏:関西ではすでにガンプロフェッショナルプログラムなどでは大阪を中心に一つになっている。それも含めて、関西では一丸となって出来る風土があると思いますが、澤先生、その辺はどうでしょうか。

澤 氏:大阪人は敷居が低い特徴があります。みなさん、フランクなお人柄でそこが協力することにとても役に立っていると感じています。それは関西の気風かもしれません。

吉川 氏:産業界では「下町ロケット」のようにある程度、産学協同ができていると感じていますが、これも関西の独特の雰囲気が産学共同の雰囲気を生んでいるんではないかと感じています。外国からの研究者や患者さんもどんどん受け入れていきたいが、一つの大学では限界があり、ばらばらでやるよりもどこかに受け皿になるような拠点がある方が患者さんの治療や人的な交流・教育も含めて都合が良いのではないかと思います。その拠点は医学部だけではなく、様々な分野が領域を超えて集まって研究を進めていける拠点となることが望ましいと思います。我々の医療国際化推進機構がこれを推進していこうと思っています。そしてこれが未来健康都市の開発に繋がっていくのではないかと期待しています。

閉会のご挨拶

滋慶学園グループ 総長/医療国際化推進機構 副理事長 浮舟 邦彦 氏

皆様お疲れ様でした。年度初めの週末ではありましたが、とても豊富な話題で素晴らしい会になりました。超高齢化社会を迎える日本において、職種間連携、産学連携のネットワークの重要性はあらゆることに大きなキーワードになると思います。第一部では最先端の臨床・研究や教育に関するご講演をいただきました。第2部では産学連携というテーマでお話しいただき、非常に充実したシンポジウムになりました。特に関西は医療/福祉をベースにして元気になっていかなければならない。大阪市の中心部の再開発はこれからですので、そこをベースにしてあらたな都市をデザインする、すなわち、医療を中心とした多方面の分野からなるグローバルな交流の拠点となる健康未来都市を開発することが重要であると思います。本日は誠に有難うございました。

シンポジウム後は、交流サロン「サロン・ド・ラミカル」において、大阪大学大学院 医学系研究科長 医学部長 澤 芳樹 氏の乾杯のご発声で、情報交換会が盛大に開催され、講師も交えて多くの参加者による活発な交流と意見交換が行われました。

文責:医療国際化推進機構 理事 木村 修